2つの丸い魂が、綿毛のように浮いている。
どうやらこれから下界に降りるらしい。
下界に行くには2つの道があり、それぞれ別々の道を歩まねばならない。
右の道は、綺麗に舗装され、とても歩きやすい道。道の周りには色とりどりの綺麗な花が咲いており、少し進むと花の種類も変わってくるので歩いていて飽きることはない。
反対に左の道は、歩くのもままならない断崖絶壁のような場所で、何だか天候もよくない。今にも崩れてしまいそうな道を風に吹かれながら歩いていかなければならない。
2つの魂はじゃんけんでどの道を行くか決めることにした。
じゃんけんポンっ
勝った方の魂も、負けた方の魂も何だか心がもやもやしていた。
勝った方の魂は、何だか申し訳無さを感じ、負けた方の魂はその様子をみて、気にしないでと慰めた。
これも下界に降りるためには仕方のないことだったのだ。
2つの魂はお別れし、それぞれの道を歩いていった。
恵まれた右の道に行った魂は、始めのうちは心が晴れなかった。左の道に行った魂のことが気になり、落ち込んでいたのだ。それでも進んでいると綺麗な花の香がその暗い気分を晴らしてくれる。
途中まで来た頃にはもう、もう一つの魂のことは全く気にしていなかった。進むのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
もう一方の険しい道を行った魂は、進み始めてすぐ絶望する。数歩進むだけでも、道が微かに崩れて、道幅が狭くなるのである。頑張って進みたいのだけれど進むことができない。しばらくその場に佇むことにする。一度佇むと、動く事がとても困難に思えてくる。そしてそうこうしているうちに、強風によって、進むはずだった道は崩れ去り、もう下界に行くことはできなくなってしまった。
2つの魂は、助けてくれる人がいないことに関しては、公平であったが、そんなの表面的な公平でしか無かった。
じゃんけんではあったけれど、道を譲ってもらった魂は下界につく頃には、もう一つの魂のことをすっかり忘れていた。そして自慢げで、自信満々な赤ん坊として生まれ変わるのであった。
2つの魂は、一つのじゃんけんで何もかも違う未来を歩むことになった。
私達は恵まれた道を誰かに譲ってもらった存在。
戦争も飢餓も体験することなく生きてこれたのも、誰かが道を譲ってくれたおかげなのだ。
私はほとんど運のこの世界で、そのことだけは絶対に忘れたくない。
それが私の中に小さい頃からある、変わることのない信念の1つです。