出来ることならもうそこには行きたくなかった。
鼻を通って外の空気が肺に押し込まれる。
壁の塗装の匂いが、私がその場所にいる事を実感させた。
とても騒がしくて、落ち着かない。
どちらかというと1人が好きな私は、人が多いところがあまり得意ではなかった。
あと1時間。
そう自分に言い聞かせて、別のことを考える。
するといつの間にかすべてのことは終わっており、そこにいた人たちが帰り出す。
隣の子が帰り際に飴をくれた。それを食べながらその場から抜け出す。
久しぶりにレモン味の飴を食べるのも悪くないな。
なぜ飴をくれたのか分からなかったし、もうその人の顔はよく思い出せなかった。
口の中で小さくなった飴を軽く噛み、半分にわる。それはちょっとした私の癖だ。
知らない人にもらった飴をよく平気で食べたものだと、後になって思う。
まあいい、もう食べてしまったのだし、忘れよう。忘れるも何も元からあまり気にしてはいなかった。
帰り際、塀の上を猫が歩いているところを見かけた。
首輪をつけた猫でおそらく飼い猫だろう。体つきも野良とは違いふくよかだった。
喉を鳴らしながら私に近寄ってくる。私が怖くないのかな、呑気な猫。
私は1人が好きなタイプだけれど、猫なら何匹でもそばにいて欲しい。
十分撫でてもらって満足したのか、突然あっさっての方向を眺め行ってしまった。
何を考えていたんだろう、でも猫に癒された私は少しいい気分だった。
すっかり暗くなった自分の部屋に戻ると、テレビをつけてそのまま少し寝転ぶ。
両腕を頭の上にあげて体をそらせる。肩を回すとたまにパキって音がなりそれが心地よかった。
少しの間ぼーっとする。
飴をくれた人がどんな顔をしていたか思い出そうと試みる。
けれど思い出せるのはその人が髪が長かったことだけで、後はさっぱり記憶から抜け落ちていた。
けれど猫のことはよく覚えている、顔つきから、体格、毛並みまで。
私は人のことをまじまじ見ることはできないけれど、猫ならできる。
だからこんなにも鮮明に覚えているのだろう。
人とも見つめ合ってみたい。
部屋の寒さが変なこと考えさせる。
私のパーソナルスペースに気軽に入れるのはきっとこの先も猫だけだろう。
あの猫はもうお家に入れてもらえたかな。